読書感想文5

「探偵ガリレオ」(東野圭吾)

東野圭吾は、妹の買った「秘密」と「片想い」を読んで「うーん」と思っていたんですが、今回のこれで見る目が変わりました。何だよ面白いじゃないか…!敬遠してた白夜行とかも読んでみようかな。

長編だと思っていたのですが短編集でした。
情念満載トリック全開ではなく、わりあい淡々とした話運びです。
一応事件の裏側には感情の動きがあるのですが、そこはあまりつっこんでは描かれていません。ついでに殺す動機もわりとユルい。いかにも現代的です。

続編もあるそうですが、うーん、わざわざ読むほどではない、かな。(2008/1/23)

「パーネ・アモーレ」(田丸公美子)

通訳体験記。
こんな苦労とかあんな苦労をしたのよ、こーんな大物にこーんな特別扱いしてもらったのよ、っていうのは、通訳をした人がどうしても言いたくなることのようです。

米原万里ならロシアで政治家(たまに芸術家)、この人はイタリアでファッション関係の重鎮。ブランド店の行列にまじってるとミラ・ショーンに声をかけられて云々、なんていうのは、あのへんに憧れてる人にとってはたまらんエピソードなんだろうなあ。

しかしながら、根っこに何かしらの思想と言うか、そういうものがいまひとつ感じ取れないのが減点対象。別に立派なものがなけらばならぬ、というわけではなく、根幹をつらぬく生きる指標みたいなものがあるといいなという程度なんだけど。

このへんが米原万里との違いなのかも知れない。(2008/1/18)

「シモネッタのデカメロン」(田丸公美子)

色恋ネタ満載の気楽な随筆ばかり。ひとつのネタに割かれているページ数も少なく、三ページほどでオチがつくので通勤電車で読むのに最適でした。
深く印象に残るものはあったかと問われれば「?」だけど、酒の席で多少使えそうなネタは拾えました。(2008/1/12)

「憑神」(浅田次郎)

浅田次郎は自分じゃ買わないんですが(蒼穹の昴は買ったけど)、実家にあったので読んでみました。
幕末が舞台、主人公は貧乏なお侍の次男坊。
立身出世を願って手を合わせたのが実は神様は神様でもただの神様ではなく…
というのが導入部。

ファンタジー路線で「しゃばけ」みたいになるのかなと思っていたら、ぜんぜん違うところに着地しました。(しゃばけは未読ですが)
うぬ、まさかそう来るとは…さりげなく登場人物も豪華な顔ぶれだし、舞台設定が完璧に生きています。

とは言え、正直置いてけぼりをくらった気分は否めません。
言わんとすることはよっくわかるけど、冒頭を読んでこの本を買う人はこういう展開をあんまり希望しないんじゃないかなあ。

悪くはないけど、まあこんなもんですかね、といったところ。(2007/12/31)

「魔女の一ダース」「ロシアは今日も荒れ模様」「ガセネッタ&シモネッタ」(米原万里)

三冊一気に。 一度に購入して続けて読んだせいか、非常に似た印象の三冊でした。ネタの重複も多い。 米原万里は、最初の「不実な美女…」と「打ちのめされるようなすごい本」の二冊でいいと思う。 ただしロシア、ソ連に興味があるならば読んで絶対に損はない。(2008/1/4)

「旅行者の朝食」(米原万里)

旅グルメと見せかけてやはり主眼は異文化交流でした。ただし主題が違うのでネタかぶりは比較的少なめ。

おいしいもの情報がたくさんあるのですが、容易に手に入るものではなかったり、海外生活を送った後に味わう日本食の素晴らしさについて書かれたりしているので、グルメ本としての機能も低いです。
未知の美味しいもの情報が知りたければぜひ。(2007/12/31)

「不実な美女か貞淑な醜女か」(米原万里)

斎藤美奈子をドン買いしたらコノザマ先生がおすすめしてくれた米原万里。お、名前聞いたことある、というわけで書評本とあわせて購入。

いや面白かった。興味深い話が盛りだくさんです。
考えたら翻訳とか通訳って、普段の生活と近いようで遠いからなあ。
再読して、さらに別の本にも手を出したいです。

ちょっと勉強になったのでメモっとこ、よく「I love you」の訳として出される漱石の「月が綺麗ですね」と二葉亭四迷の「死んでもいい」、後者は英語ではなくロシア語の訳。
さらに、二葉亭四迷が「死んでもいい」と訳したのはロシア語の「I love you」に相当する言葉ではない。(2007/12/26)

「華麗なる男性誌」(斎藤美奈子)

ちょい古い本でした。文庫落ちを待つとこういうのがあるからイカンですね。
初出は2003年頃かな?扱っているモノが雑誌という鮮度勝負なものだったので、わかるようなわからんような、でもまあわからんではないわな、という感じでした。

私は滅多に雑誌を見ないのですが、漠然と抱いているイメージと本書に書かれている内容とが意外と一致することに驚いたり、ほうほうあれはそういう雑誌だったのかと納得したり。

たまに資料用に男性のファッション誌は買うんですが、記事はまったく読まないので新鮮でした。そうかそんなことが書かれているのか…。(2007/12/21)

「物は言いよう」(斎藤美奈子)

ひさしぶり斎藤美奈子の本領モロフェミ本。
あーやっぱり斎藤美奈子好きだ。この距離感がいいです。
フェミニストを自称する人ってどうもとんがりすぎてたり頭デッカチだったりするのが苦手なんですが、この人の言うフェミは実社会で使えるレベルなのが好きです。(頭デッカチで使いようがない変なフェミを主張する人だと私が思う人々:遙洋子、田嶋陽子。特に遙洋子はもう黙っててほしい)

というわけでこの本は、ちょっと話題になったりした色んな人の色んな発言を持ってきて、「これってフェミコード的にどうなの?」と意見を述べたもの。
女は子供を生む機械とか、涙は女の武器とかいうわかりやすいものから、一見非常にフェミに理解を示しているように見えて実は…というものまで幅広く取り上げています。

どうなの?だけじゃなしに、「私はこれはこうだと思う」までカッチリ書いてくれているのが気持ちいい。半端な本だとこの部分がスコンと抜け落ちてるからなあ。(2007/12/17)

「ロウフィールド館の惨劇」(ルース・レンデル)

訳が小尾芙佐だ!小尾芙佐ラブ。

何だかんだで選ぶ本てミステリ系が多いなーと思いつつ読了。
この形式は何て言うんだろうな、倒叙とも少し違うし。

最初に殺人の動機が語られ、物語が始まるとあとはひたすら、幸せな家族がいかに惨たらしい運命に向かっていっているかを描くという手法。
下手を打つと本当につまらないと思うのですが、動機がまず「殺人犯が字を読めなかったから」という、一体どうして殺人に結びつくのかががわからないような代物。何で字が読めないだけで殺されるのかがわからないので、あっという間に引き込まれます。

殺されてしまう一家も個性的で魅力的。
薄い文庫一冊というボリュームなので、それぞれの登場人物を描くのに大したページ数は割かれていないのに、少し読んだだけで人物像がありありと浮かびます。また匙加減が絶妙なのもいい。善人だけど多少デリカシーに欠けていたり、あるいは両方を備えることができる資質があるのに若さゆえにそこに至っていなかったり。

殺される側にも殺す側にもたっぷり思い入れ(肩入れとはまた違う)ができた時点で惨殺開始というタイミングも素晴らしい。

何より「やられた!」と思ったのがオチ。まさかああ来るとは。(2007/12/15)

「半身」(サラ・ウォーターズ)

ビクトリア朝のイギリスを舞台に、二人の女性の日記を交互に見せる形式で描いた…ミステリ?オカルト?…という感じのお話。
繊細な描写で主人公の心の動きを丁寧に追っていきます。

あの時代の重苦しい空気とヒロインの心情、監獄の圧迫感、それらがうまく噛み合って重厚な雰囲気を醸し出しています。この空気の中でなら何が起こってもおかしくない、というところへ読み手を連れて行く手法が素晴らしい。

一人称形式であることを最大限活かした小説でした。(2007/12/11)

「霊応ゲーム」(パトリック・レドモンド)

20世紀半ばのイギリスのパブリックスクールを舞台に、少年たちの日常と非日常を描いています。

現在→過去→現在の順で語られるのですが、最初に出てくる中年男性が、過去の物語の中の誰なのかが最後までわからないというのが最高にスリリングでした。時間をさかのぼる形式の場合、下手をすると結末が全部わかってしまって楽しみが半減するのですが(結末はわかっているが経緯がまったくわからず、その経緯を楽しむケースは別)、これは本当に最後の最後まで結末がわからず、本当にどきどきしながら読みました。

オチもすごい。
いい恐怖を味わわせてもらいました。(2007/12/11)

「カイト・ランナー」(カーレド ・ホッセイニ)

少年時代に犯した罪を償うチャンスを与えられた男の選択とは。

…という感じの内容でした。ページの約半分を費やして自分の人生を振り返り、その後、与えられたチャンスをどうするかについてが語られます。

設定とオチはわりと最初の方で提示されるので、あとは楽しんだ者勝ちです。ただ、物語を読み慣れていると先の展開が全部わかるくらいベッタベタなので、ディティールよりも筋書きを楽しみたい人にはおすすめできません。

少年時代の描写が非常に生き生きとしていて魅力的だっただけに、中盤から終盤にかけての展開と小綺麗すぎる伏線回収が惜しかったです。いくらなんでも都合が良すぎるというか、何でお前らの世間はそんなに狭いんだと言うか。 アフガニスタンに住む人々の特性についてしつこく書かれているので、ここはそういう世界なんだという理解はできるんですが、それにしたってなあ。 あと、何ページも費やして障害の高さを説明しておいて、あっさり「実は抜け道があるよー」という展開にもげんなり。数ページしか出てこないモブに大層な設定があるのにもうんざり。

書き込みのバランスの悪さと、何より主人公への肩入れのしづらさが、私にはちょっとしんどい一冊でした。 いや本当に、ハッサンと別れるまでと別れた後、まるで別の人が書いたんじゃないかってくらいの落差があったんだけど…途中で書くのが嫌になったの?(2007/11/18)

追記、「君のためなら千回でも」というタイトルで文庫になっています。ハヤカワ。(2008/12/24)


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百shebeem@infoseek.jp