読書感想文8

「結婚の条件」(小倉千加子)

お恥ずかしい、小倉千加子はじめて読みました。
フェミ系の本はめちゃくちゃ敷居が高い学術書か、なんかよくわかんない人が極端すぎることをキンキン喚いてるかどっちかだという偏見があったんですが、そうじゃない人もいるのね。斎藤美奈子とテイストが似ています。斎藤美奈子の提示するフェミニズムが「平和な生活を送るための処世術+ウルサイ連中へのぼそっと洩らす愚痴」ならば、こちらは「平和な生活って言ってるけどそれは本当に平和?」という問題提起、かな。

中で「そうそう!」と膝を打ったのは、こんな箇所。
ああ探そうと思ったけど見つからない…付箋つけとこ、今度から。

「『フェミニズムなんてもてないブスのひがみだろ』と言う男に、『そのとおりだ。でも、それじゃブスはどんな扱いをしてもいいの?』と聞きたい」

とかね。
結婚はカオとカネのトレードだとか、もやっとしてたものを「それはこういうことです」とばちっと言ってもらえるのがすごくすっきりします。
強いて気になる点があると言えば専業主婦およびそれを目指す未婚女性への冷淡さだけれども、まあそういう人たちはそもそもフェミに興味ないもんな…。

この本のターゲットは女性なので、女性側の問題を掘り下げておりますが、男性側を掘り下げた本も読んでみたいな、というわけで、小倉千加子を読む旅に出ようと思います。著作けっこう多そうだから楽しみだ。
酒井順子にイラっとした人には是非読んでいただきたいです、小倉千加子。(2010/4/25)

「壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか―」(金子雅臣)

著者は、長年東京都の労働相談に携わってきた方、だそうです。
ただ相談を受けるのではなく、必要とされれば両者の間に入り問題解決に導くという東京都独自の「あっせん」という制度において、実際に被害者加害者と対話したその体験が語られています。
もちろん単なる実録ではなく、何故そうなったのかという考察つき。
面白くないわけがない、んだけど、でもやはり胸くそ悪いセクハラの実例を見ていると、ふつふつと怒りがわいてきます。

読んでいて驚愕したのが、セクハラをしかける男が、本気の本気で、
「これはプライベート」
だと思ってるということ!!

仕事の帰りに飲みに誘ったり、仕事の最中に唐突に手を握ったり、非正規雇用の人に正社員への登用をほのめかしたりしてるくせに、でもそれをぜーんぶ、プライベートだと思ってる!
おっそろしい…。

会社でやられてるから手を握られてもやんわり逃げるだけに止めているんだと言うのに、わかってないわけです。
普通に二人デートをしてる最中に相手の手を握ってるのと、全くの同レベルの出来事だと認識してる。怖い。これは怖い。
ジェンダーやらフェミやら言う以前に、こういう男はあれなんじゃないか、脳みそが気の毒なんじゃないか?
公私の区別がつかないって、どう考えても発狂してるだろうそれは。

しかしながら、旧態依然の価値観の中で育ち、生きてきた男にとっては、「会社における自分の価値、イコール俺自身の価値」というのは、もう自明すぎるほど自明のことであるようです。
「自分は人間だ」くらい当たり前すぎるから、被害者がそのふたつを分けて見ていることがまっっったく理解できない。
自宅までタクシーで尾行された挙げ句強姦未遂をされた被害者が泣いていやがるのも、「女ってのはいざ結ばれる場面になると感極まって泣いたり嫌がってみたり、心とは真逆の行動をとって男を誘うものだ」なんて言うんだから!あーおそろしすぎる!

私、セクハラってのはもっと単純なものだと思ってました。
でも違うんだな、こういう本物のキ印がいるんだ。
勉強になりました本気で。(2010/4/24)

「海の都の物語1~6」(塩野七生)

ローマ人の物語を読んでいると、どうしても駆け足だなあという印象を受けてしまいますが、それでも文庫にして六冊のボリュームは贅沢。
地中海三部作、と言うんでしたっけ。
彼女の、ロードス島、レパント、コンスタンティノープルは。
あれとあわせて読むとなお楽しめると思います。そういう意図で書かれてるのかな、もともと。

文庫においても終焉を迎えつつあるローマ人とは違い、こちらの国の終わりはどこか穏やかです。
書き手の悲痛なまでの思い入れがないせいか(塩野七生は、ヴェネツィアのことはローマとは違うベクトルで好きではあるようですが)、どこか淡々としています。
終幕が劇的であることも、悲愴感をやわらげる効果をもたらしているかも。

読んでいっそう、ローマ人の着地点が楽しみになってきました。(2009/11/20)

「ローマ人の物語35~37」

いよいよ帝国の終焉が近づいて参りました。
もはやローマ帝国全盛期に出てきたような人々の登場はありません。

有り体に言うとつまんない…びっくりするくらいつまんない…。これ、よく書いたなあ塩野七生…。
いや、何と言うか、この人が、読んでいてこれほど爽快感皆無の箇所を書いたなあと言うか、あんだけローマ的ローマ人が大好きな人が、ローマがローマでなくなっていくところをよくこれだけ丁寧に書いたなあと言う気分になったのです、読んでいて。
しかし、ここを書いたからこそ、この作品は大きな意味を持つものになっているんだろうなとも思う。(2009/10/30)

「田宮模型の仕事」(田宮俊作)

十年近くずーっと気になっていながら、何となくご縁がなくて読まずにいました。
世界のタミヤを築き上げた社長による一代記です、と言うと成功した人の苦労話自慢話のコンボだろうと思われそうですが、さにあらず。
好事家であり、職人であり、経営者でもあるという彼のバランス感覚の良さが、よくあらわれた一冊です。
こういう本は、内容がどれかに偏ってしまうと、ただの自慢話やら日記になってしまうと思うのですが、一番好きなことを誇りを持ってやりつつも、資金繰りやら売り上げに頭を悩ませていた、なんてことがストレートに語られており、読んでいてわくわくします。
そういう意味ではビルドゥングスロマンの一種なんでしょうが、不思議と嫌味がないんだよなあ。

文庫化にあたり、外から見た田宮俊作、という一章が追加されています。
本人の文からは伺えないような苛烈な一面が描かれており、ああ、これがあったからこそ世界のタミヤになったのだなと納得させられます。
読んだ後、プラモデルを買いに行きたくなりました。(2009/10/30)

「あやし うらめし あなかなし」(浅田次郎)

怪談、と言うには少々物足りないと言うか中途半端。浅田次郎を買う人はこのテイストを求めていないんじゃないかなあ。
他の作家が書いたものだったら、もうちょっと評価は高かったかも。「遠別離」だけは浅田次郎っぽかったけど、あれも消化不良な感じだったしなあ。(2009/9/23)

「汝の名」(明野照葉)

妹から借りました。
成り上がりの蹴落としあいサスペンス。どんでん返しが繰り返されつつも、不思議と読後感はすっきり。

設定に無駄がないのがよろしい感じでした。難をひとつだけ言うなら、どうもディティールが嘘くさいこと、かな。
あえて他の作品を読みたいと思うほどではありませんでした。(2009/9/23)

「ダヴィンチコード」「天使と悪魔」

計六冊ですが、二日ほどでさらりと読めました。ライトでいいな!

出版順はタイトルどおりですが、時系列としては「天使と悪魔」が先です。で、おもしろさの度合いは、タイトルどおりです。
ダヴィンチコードを読んだ感じ、執筆の時点で既に天使と悪魔は書き終えていた、あるいはほぼ完全に話が出来上がってあとは書くだけという状態だったようなのですが、出版順はこのとおりで本当に正解だったと思います。

内容は、なんと言うか、オタクにとってはさほど目新しくもない題材なのですが、特にダヴィンチコードは話の展開が早いのでさくさく楽しめます。盛り上がる場面も多い。
天使と悪魔も似た展開、似たヒロイン、黒幕もまあ予想どおりと言うかなんと言うか…友人にすすめるとしたら、私は「天使と悪魔は読まなくてもいいよ」と言うと思います。

しかしこの作家は、疑似父娘が大好きなんだな。
二作品ともそれでせめてくるとは思わなんだ。
あと、私映画は観てないんですが、ラングドンはあの役者さんよりもっとハンサムな人の方がいいと思います。(2009/8/17)

「あなたはオバサンと呼ばれてる」(内館牧子)

…の、シナリオって多分どっかで見てるんだろうな、テレビとか。しかし、これがこの人の代表作ですよと著者紹介欄にあげられている作品はどれも古すぎてわからない。最近テレビ観ていないのもあるしなあ。

で、この本です。
暇つぶしに職場の本屋で手に取ってパラ見したら、これが映画ガイドブックなのです。合計三十六本、比較的新しい(…と言っても十年ほど前が最新)恋愛物から、ふっるいポルノまで、実に幅広く。

映画の紹介は別欄にまとめ、本文ではそこに出てくる女性がいかに「オバサン」であるか、またオバサンでないか、そしてその理由は一体何なのか、を取り上げています。
なるほどと納得させられたり、そうか?と首を捻ったりしつつも、紹介されている映画を観たくなるのはさすがと言うべきでしょうか。(2009/5/17)

「D.T.」(みうらじゅん・伊集院光)

D.T.=童貞ね。
ふたりの対談です。

…ああこれはいかん、男性向けの本だった。
面白いな、とは思うものの、読み終えて人にすすめるかと言われたら、それはしない。

ただ、童貞云々ってのはおくとして、ああ、こういうメンタリティは理解できるなあ、という部分はありました。妄想だけが先走る、オールオアナッシングの極端な思考、このあたりは童貞ではなく思春期に通る道なんじゃないかな。
でもやっぱり、童貞であることがそこまでの重荷になる、という感覚は、理解できるようでできないなあ。
いや言うけどね、「あの人素人童貞っぽいよね」とか。嫌いな人のこと。(2009/5/17)


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