思いつくままに書いてみます。
「泣けてくる」とかじゃなく、本当に「読んで泣いた」本。(2006/12/3)
舞城王太郎/講談社。
wikiで調べてみたら文庫落ちしてるみたいですね。ものすごーくどうでもいいことですけれど、この作品をはじめて本屋で手に取ったとき、「わりと(本の厚みが)薄いな」と思った記憶があります。通常の新書よりは分厚いんですが、これは京極の影響だなあ。
奈津川家サーガの第一作。
句読点の極端に少ない独特の文体(おまけに一人称)がダメな人はダメみたいですが、中身はと言うとカタルシスもきっちりある、ものすごくまっとうな成長物語。テーマはやっぱり家族の破壊と再生に子供の独立。
暴君な父親のもとで育った四人の兄弟の物語なんですが、怒涛の展開であちこち引きずり回された挙句に号泣させられました。いやほんとに泣いた。いい大人(社会人)になってから読んだ本の中では、一番泣きました。
どこで泣いたかを書くとネタバレになるから伏せますが、丸雄のあの台詞、漢字ならたった二文字、音にしてもたったみっつの、あの台詞!
舞城作品は単行本化されたものはすべてチェックしていますが、それもこれも、この作品で味わったあの衝撃が忘れられないからです。(2006/12/3)
オーソン・スコット・カード/早川書房。
SFはほとんど読まないので、カード作品はこれと「エンダーのゲーム」しか知らないのですが、これ、かなり地味な作品なんだそうです。私が購入した2000年の時点ですでに絶版でした。現在は古書肆でしか入手できません。なんでだー?(いや、売れなかったからなんだろうけど)
話がそれるんですが、二作品読んで、翻訳者の違いがここまで顕著に出るものかと驚いたのもこの作家です。
エンダーのゲームの訳はほんっとうにひどかった!原文を読んだわけではないので誤訳がどうのと言うのではないのですが、もう日本語として超不自然。読んでいてここまで苦痛を味わったのもひさしぶりでした。筋書きが面白いから読み進めましたが、そうじゃなかったらぜったい無理だったと思います。
舞台は、まあSFの基本です。全宇宙を支配する皇帝のいる未来。
で、その皇帝が、「魂の歌い手」と呼ばれるソングバードを求める…というところから物語がスタート。あ、ソングバードというのは、現代風に言うと「超癒し系グッズ」みたいなもんです。いや人間なんだけど。ハイパービューネ君みたいな感じ?
まあともかく、究極の癒し系であるソングバード・アンセットの一生を描いたお話です。
と、こう書くとたいそう地味なお話のようですが、実際には次から次へと劇的な展開が待ち構えていて、退屈する暇はありません。
アンセット自身の人生も波乱に満ちたものですし、そもそもソングバードを求める皇帝ミカルが、「初代皇帝」、つまり戦いによって全宇宙を手に入れた人間です。
他にも、ミカルに仕える将軍リクトルス、アンセットを育てたエステやヌニヴ、脇役たちそれぞれがそれぞれの物語を持っていて、それらが少しずつリンクしながら全体の物語が進んでいきます。
あちこちで小出しに泣かされたのですが、一番はミカルの回想かな。ミカルだからこそ、ソングバードとしてアンセットが選ばれたのだ、という必然性。
あと忘れていましたが、男同士の絡みがダメな人はダメかも。物語の主題にかかわる部分で、もろに致してる場面があります。露骨な表現ではありませんが、要注意。(2006/12/3)
ダニエル・キイス/早川書房。
新書に落ちています。
ビリー・ミリガンやらクローディアやら、十年くらい前はげっぷが出るほど本屋に積んでありましたが、今はそうでもない…と思ったら、なんだかんだで新書のコーナーへ行くと必ずダニエル・キイスは揃っています。最近はトリイ・ヘイデンの方が人気のようですが、まだまだ健在。翻訳版が最初に出たのが1978年だそうなので、日本でも三十年近く売れ続けているわけか…バケモノみたいな本だな。
日本の歌手が歌にしたり映画になったり、日本で翻案されてドラマになったりもしているみたいですね。知りませんでした。
筋書きはごく簡単で、手術でIQの跳ね上がった青年が、ふたたび術前の状態に戻るまでの短い期間を、青年自身の手記というかたちで描いたもの。
原作者が凄いのは勿論ですが、これを訳した小尾芙佐はもっとすごいと思います。1989年版の訳が現在出版されているもので、これは最初の1978年版から大幅に改訂されているそうです。チャーリーのIQ変動とともに文体が変わっていくあのスタイルは、1989年版からなのだとか。うわ、'78年版読みたいな…!
泣き所はやっぱり、アルジャーノンとチャーリーの別れの場面でしょうか。正直後半泣きっぱなしだったので、どこがどうとか言えない…
幸せって誰が決めるもんなんだろう、という疑問が、読後残ります。(2006/12/3)